はじめに
周囲よりも低い温度を維持しこの温度を注意深くモニターすることは、生体外診断で使われる試薬の寿命を伸ばすために極めて重要です。ほとんどの試薬は冷蔵を必要とし、室温で数時間放置すると使えなくなります。試薬は劣化し雑菌で汚染されてしまいます。このため試験に忠実な結果に影響を及ぼすことになります。試薬はまた、凍結・解凍が繰り返されると、悪影響を受けます。
コンプレッサベース、熱電ベース共に冷却ソリューションは、試薬を冷却するのに必要な正確な温度制御ができます。しかし、熱電冷却(ペルチェ冷却ともいわれる)の方がコンパクトで信頼性高く、安い保守コストの熱管理技術です。加えて、コンプレッサベースのシステムに使われる有害な冷媒物質を政府が禁止すると、長期間稼働させるという計画が難しくなります。冷媒を使わない熱電冷却アセンブリはもっと環境に優しいソリューションとなり、生体外診断装置内で長期間寿命を保てるようになります。
生体外テストに使われる医療用試薬には正確な温度制御が必要です
応用概要
試薬は、反応を起こすか、あるいは反応が起きたら決めるために生体外の診断に使われます。さまざまな応用機器で同様に機能します。例えば有機化学では試薬は、出発物質で変換を起こすために加えられます。臨床化学では、特定の材料の有無を検出したり、特定の反応を起きるかどうかをテストしたりするために、試薬は物質の濃度を測定するのに使われます。試薬は、研究所や医療の技能者によって、ターゲットとなる物質を特定し測定するのに使われます。バイオテクノロジーでは、試薬は細胞内の化学物質を同定し操作するのに使われます。
これらの試薬には共通の特性を共有しています。つまり安全な保管には温度範囲が狭いということです。だから正確な温度制御が必要なのです。特にバイオテクノロジーで使われる、これらの試薬にとって、この温度制御には冷蔵を使う必要があります。周囲よりも低い温度を正確に管理することは、試薬の置き換えコストを下げ、実験室テストの正確性と信頼性を確実にします。化学や生物学のプロセスで使われるさまざまな試薬は、保管温度によって反応が異なるのです。実験室や医療用の試薬に必要な保管システムは、特定の試薬や保管時間によって要求が異なります。これらの保管システムは一般に、制御すべき温度範囲に基づき3つのタイプに分類されます:
保管システム | 制御すべき温度範囲 |
標準的な冷凍庫 | -20ºC |
冷蔵庫 | 2ºC から 8ºC |
室温 | 15ºC から 27ºC |
応用機器の冷却要求
2℃から8℃までの冷蔵温度は、酵素や抗体などよく使われる生物学上の試薬で短期間の保管ソリューションとなります。試薬のサンプルはこの温度範囲内に保管されるとき、わずかな温度の揺らぎにも耐えられます。しかし、試薬の中には、壊れ始める前にわずかな温度変化が数回までしか許されないものもあります。熱電冷却アセンブリを使う最新の保管冷蔵庫は、正確な温度制御が可能で、定常状態では±0.5℃以内という精度を提供します。
加えて、最も正確なテスト結果を得るためには体温で試薬をテストすることがベストです。熱電冷却器は加熱と冷却の両方ができるので、テストするために患者のサンプルに注入する前に体温まで試薬を加熱して使うこともできます。
応用機器の問題点
thermal design engineer.
正確な温度制御に加えて、試薬の冷却用の試料保管ソリューションを設計する上で問題がたくさんあります。問題の一つがSWaP(サイズ、重量、そしてパワー)の要求です。他にも、冷たい表面上に形成される結露を和らげることや、チャンバ内の気流を管理すること、騒音レベルを下げることなどの問題があります。コンプレッサベースのシステムでは冷媒の使用制限なしでこれらの要求を満たすことは、熱設計エンジニアに無理を強いることになります。
医療診断装置を小型化し、実験室のスペースを開けるというトレンドには、生体外診断システム全体のサイズを減らす、電子回路をもっと詰め込み部品の密度を上げる、などを含みます。熱電冷却器はコンパクトなフォームファクタ(大きさサイズ)を持ち医療電子回路の密度を上げることができます。無駄な熱は、冷却装置の性能を上げ、消費電力を減らし、動作中の騒音を減らすためにもっと効率良く管理し逃がす必要があります。熱電冷却アセンブリは小型化と直流動作によるコンパクトなフォームファクタを提供します。
熱電冷却アセンブリは、空気から空気へ、直接接触から空気へ、あるいは液体から空気へと熱を転送する機構において提供されます。各熱転送機構にはいろいろあります。空気から空気への熱転送装置は、試料保管室内で温度勾配を最小にするため空気を循環します。しかし、例えば試料の取り出しなどで周囲に空気を開ける場合、外の湿気がチャンバ内に入り結露する恐れがあります。直接接触から空気へのユニットでは、チャンバの壁の外側に直接取り付けることで、この空気の交換を減らすことができます。冷却は熱伝導だけでなされるため、冷却側では気流が発生しません。もし装置に冷却ユニットを取り付ける場所がないのなら、液体から空気へのユニットを使うメリットがあります。この場合、この冷却ユニットは、スペースが使え、冷媒をチャンバへ循環させて温度を制御できるような場所に設置できます。
熱管理ソリューションの設置場所と取り付け向きが考慮すべき重要なポイントです。コンプレッサベースのシステムはもっと大きく、適切な動作には縦方向に取り付けなければなりません。時には、チャンバから離れて取り付けなければならない冷却装置もあり、その結果診断システムはもっと大きくなり複雑なダクトで排気しチャンバ内に導入しなければなりません。熱電冷却アセンブリを使えばこうはなりません。この熱電冷却はずっと小さく、いろいろな向きに取り付けられるからです。この取り付けの向きももっと多くの気流の選択肢となります。空気の採り入れ口と排気の出口は冷却性能を最大にするために考慮しなければならないからです。
設定温度が低すぎるため、結露が問題になることもあります。湿気は、温度が露点よりも下がるにつれ冷却表面に形成され、結露が素早く集まってきます。湿気が電子回路や熱電キャビティに染み渡ると、急速に劣化し故障に至ります。露点以下の温度になる表面を全て絶縁し結露から保護しなければなりません。表面がもし絶縁されていなければ、結露が重力に従って迂回して一カ所に集まるように向きを変える必要があります。
地球温暖化に直面し、多くの政府、特に欧州各国がオゾン層を破壊する有害な冷媒を環境上制限しています。R134aやR404AなどのHFCを使っていた古いコンプレッサベースのシステムは環境に優しい冷媒のために順次廃止されつつあります。最新の冷却装置ではさまざまな天然の冷媒を使っています。R744 (二酸化炭素)やR717 (アンモニア)、 R290 (プロパン)、R600a (イソブテン)、R1270 (プロピレン)などです。しかし、天然冷媒にも問題があります。高圧が必要、毒性が高い、燃えやすい、窒息性などです。熱電冷却アセンブリは、冷媒を使わないためこの政府の制限がありませんので、装置の動作寿命を伸ばすのに有効です。
正確な温度制御とサイズの制限、消費電力や騒音の削減、気流の制約、結露防止、温度アラームの必要性、CFC冷媒を使う制限といった問題は、多くのメーカーが温度制御の代わりになる技術を探してきました。それが熱電冷却アセンブリです。
熱電冷却アセンブリ
熱電冷却アセンブリは、特定の応用によっては対流や伝導、液体などの方法で熱を除去するために、温度制御を集積した熱電冷却器を利用する冷却システムです。このシステムは、試薬保管チャンバを冷却するのに理想的な選択肢です。従来のファンのトレイのようなパッシブな冷却技術では温度を周囲温度よりも下げられないからです。加えて、コンプレッサベースのシステムは、冷媒の種類に基づく政府の規制に直面していますので、長寿命の製品に準拠することが難しいのです。
熱電冷却アセンブリは、半導体のヒートポンプデバイスで、ペルチェ効果を使っており、熱を移動させるための熱交換機は必要です。動作中、直流電流が熱電冷却器を流れ、このモジュール間に温度差を生じます。熱電冷却器の片面は冷却され、もう片面は加熱されます。熱電冷却器は通常、強制対流ヒートシンクを冷却面に取り付け、チャンバの内側から熱を吸収し、高温側のヒートシンクは周囲環境へ熱を排除します。お望みならこのデバイスは、熱電冷却器の極性を逆向きにすることによりチャンバの内側を加熱することもできます。テストする前に試料を体温まで上げる時にこの方法は有効です。
熱電冷却アセンブリは、コンプレッサベースのシステムと比べ、効率高く安定して、コンパクトで信頼性高くメンテナンスフリーのパッケージにして極めて正確な温度制御を提供します。加えて、熱電冷却アセンブリは、環境にもやさしく、熱を放散するための冷媒は必要ありません。
熱電冷却アセンブリは、可動部分がない固体構造を特長としているため全てを小さな床面積で、熱負荷が少なく騒音もなく低消費電力で高い信頼性で動作します。熱電冷却アセンブリは、どのような向きにでも取り付けられますので、設計者は集積化のフレキシビリティを上げることができます。
熱電冷却アセンブリは、双方向の温度コントローラを使って二つの設定温度の間で温度を維持します。このコントローラが熱電冷却器の電源をオンにして、いったん温度が上限に達するまでチャンバを冷却し、設定温度よりも数℃低い点で電源を切ります。同様に、デバイスが加熱モードにある時は、コントローラは電源を入れ温度が下限に達するまで加熱し、この下限よりも数℃高い点でオフにします。所望の温度範囲に設定するため、温度限界の設定点と併せてヒステリシスな設定を使うのです。
レアードサーマルシステムズのソリューション
レアードサーマルシステムズは、3タイプの熱電冷却アセンブリを提供します;冷蔵および標準的な冷凍試料保管器のニーズに合ったものです。
熱電冷却アセンブリのSuperCool Xシリーズは、研究所内の環境で分析試験や医療診断に使われる試薬保管室のようなチャンバにおける正確な温度管理を提供するように特に設計された製品です。SuperCool Xシリーズの特長は、高性能な高温側のヒートシンクを提供している独自の特許取得済み設計です。このヒートシンクは、従来の熱交換機よりももっと効率良くもっと素早く熱を放散するため、冷却性能を最大90%高めることができました。この製品は、直流24Vで動作し、冷却パワー115~407Wの排熱容量を持ちます。空気から空気へ、直接接触から空気へ、そして液体から空気へという3つのタイプを入手できます。小型のフォームファクタで設計され、冷却能力を最大に上げられる専用の熱電冷却器と、騒音を低減するためプレミアム級のファンを利用していながら、耐湿性の優れた熱絶縁によってチャンバ内に結露が侵入できないようになっています。
SuperCool Xシリーズの熱電冷却アセンブリは115~407Wの冷却パワーで、空気から空気、直接接触から空気、液体から空気の3タイプのバージョンがあります
中ないし大規模な医療保管チャンバで使われる液体循環ループの温度を制御するように設計されたSuperCool XシリーズのSLA-400は、このサイズで業界最大の冷却能力を持っています。SLA-400のような液体から空気への装置のメリットは、スペースさえあればどこにでも取り付けられることです。このことは、周辺の電子回路によって温度が上がり、空気の供給が限られるような診断装置の中心から離して設置できます。電子回路のスペースの自由度が上がり、チャンバを2漕重ねることができる結果、冷却の能力が高くもっとコンパクトな診断システムができるのです。
SLA-400のような液体から空気への装置はチャンバを2漕重ねることができもっとコンパクトな診断装置が可能になります
PowerCoolシリーズは、医療、分析、工業市場向けに屋内使用に設計されています。この熱電冷却アセンブリは、20W~280Wという広い範囲の冷却能力を持っています。このシリーズには、空気から空気と、直接接触から空気の2タイプのバージョンが入手可能で、高温側の熱を放散するために乱流を使っています。空気から空気へのアセンブリは対象物を対流で冷やし、ここでは熱は、ファンとダクトシュラウドを備えた熱交換器によって吸収され放散されます。
PowerCoolシリーズは、20~280Wの冷却能力で、空気から空気、および直接接触から空気への2タイプのバージョンがあります
Tunnelシリーズの熱電冷却アセンブリもまた、医療診断装置や分析装置向けに設計されています。特許を取得した高性能な直交流技術を使います。これば熱交換器を通じて空気を引き寄せる時に熱輸送を最大にする技術です。この直交流技術は、従来の乱流アセンブリと比べると、必要な気流経路の数を減らすことができます。排熱動作は、熱電冷却器で発生し、ここでは消費電力を減らすために高い性能指数を達成するようにカスタム設計されています。より小さなフォームファクタのTunnelシリーズは100W以上の冷却能力を発揮し、広範囲な冷却応用機器に対応します。このTunnelシリーズは直流12Vか24Vで動作し、対流(空気から空気)あるいは伝導(直接接続から空気)方法で冷却します。
Tunnelシリーズの熱電冷却アセンブリは、100~100Wの冷却能力で、空気から空気と、直接接触から空気への2タイプがあります
正確な温度制御
加えて、先進温度コントローラSR-54シリーズと組み合わせると、熱電冷却アセンブリは設定温度の±1℃以内で正確な温度を制御できます。温度センサからのフィードバックを使って出力を変え筐体内の温度を制御するのです。この双方向温度コントローラSR-54は、熱電冷却アセンブリが加熱冷却の両方を行うことで、高精度で正確な温度制御を可能にします。SR-54はまた、モニター機能とアラーム機能も付いているため、問題になるファンや、サーモスタットの加熱、温度センサの故障などに対処できます。これら全ての機能は、試薬サンプルの安定な環境を維持し装置の稼働時間を最大にするうえで非常に重要なものです。このコントローラは最小のプログラムしか必要ありませんので、熱電冷却器に簡単に搭載できます。コントローラはまた、ある特定の温度に達したらファンのスピードを落として、稼働時の騒音を小さくできます。
熱電冷却アセンブリは温度コントローラSR-54シリーズと組み輪わせると正確な温度制御ができるようになります
結論
試薬の保存寿命は温度安定性に大きく左右されます。試薬は、劣化したり汚染されたりする前に室温では2時間しか持ちません。適切な保管条件がとても重要です。汚染された試薬は試験結果に悪影響を及ぼし、試験結果を信用できなくします。熱設計者は、試薬保管装置を周囲温度よりも冷やさなければならない時に、温度制御や結露、気流などたくさんのファクタを考慮しなければなりません。試薬保管システムでは、熱電冷却アセンブリは従来の熱管理技術と比べ、もっと効率高く、コスト効率が良く、信頼性の高い熱管理方法を提供しなくてはなりません。レアードサーマルシステムズのスペースの小さな熱電冷却アセンブリは、試薬保管装置に必須の優れた温度安定性と結露防止を提供しています。加えて、熱電冷却アセンブリは、もっと正確な温度制御ができ、もっと小型で騒音が少なく、環境にやさしく、TCO(全運転コスト)が低いのです。レアードサーマルシステムズのSuperCool XシリーズとPowerCoolシリーズ、Tunnelシリーズは全てRoHS仕様に準拠し、これらの厳しい温度制御の要求に合うように設計されています。
SuperCool Xシリーズの詳細は次のURLをご覧ください https://lairdthermal.com/ja/products/thermoelectric-cooler-assemblies/peltier-supercool-series
PowerCoolシリーズの詳細は次のURLをご覧ください https://lairdthermal.com/ja/products/thermoelectric-cooler-assemblies/peltier-power-cool-series
Tunnelシリーズの詳細は次のURLをご覧ください https://lairdthermal.com/ja/products/thermoelectric-cooler-assemblies/peltier-tunnel-series
SR-54プログラマブルコントローラの詳細は次のURLをご覧ください https://www.lairdthermal.com/products/product-temperature-controllers/tc-xx-sr-54-temperature-controller