CMOSセンサーのための熱電冷却

はじめに

ほぼ50年間、CCD(電荷結合デバイス)センサーとCMOS(相補型金属-酸化膜半導体)センサーは、デジタルイメージングアプリケーションのさまざまな分野でコストと性能を競い合っています。高解像度の画像が要求された場合、ペルチェ冷却器(熱電冷却器)はCCDとCMOSイメージセンサーの両方とも冷却してきました。設計エンジニアは、天体写真、超解像度顕微鏡、X線結晶学、および分光分析などの用途にはCCDを使いがちでした。一方、安価なデジタル化写真撮影にはCMOSセンサーが使われてきました。
最近、CMOSセンサーは、伝統的にCCDセンサーが主流だった分野に進出し、さらには自動運転システム、マシンビジョンと学習、およぶ対象物の検出と認識などの新しい用途にも使われ始めています。これらの既存分野および新用途で、熱電冷却器を使用したアクティブスポット冷却により、新しく革新的なCMOSセンサーが低コストという観点からCCDよりも優れた性能を発揮するようになってきています。

 

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図 CMOS センサーは新しい用途や今までCCDセンサーが使われてきた分野で幅広く使われるようになってきています。
 

イメージセンサー 

デジタルカメラは、CCD(電荷結合デバイス)センサーとCMOS(相補型金属酸化膜半導体)センサーの2つの主要なタイプの画像センサーのいずれかを使用しています。どちらのタイプのセンサーも同じ機能を実行しています。フォトディテクター(ピクセル)の複雑な2次元アレイを使用して、光(光子)を電荷(電子)に変換します。次に、これらの個々の一塊の電荷が増幅され、デジタル化されて、デジタル画像が形成されます。 2つの主要なタイプのセンサーの違いは、この操作がどこでどのように実行するかということです。

CCDセンサーでは、各ピクセルに蓄積された電荷がチップ全体で一列ごとに同期をとって、各列がセルごとに読み取られます。ここで、オフチップ(センサーチップ外)の低ノイズアンプが電荷を電圧に変換し、最後にアナログ・デジタルコンバーター(ADC)によってデジタル化されます。さらにデジタル処理により、平均ノイズレベルが低下し、最終的な画像が描かれます。このため、CCDセンサーの読み出し速度は制限されがちです。 CCDセンサーは温度に非常に敏感であるため、多段の熱電冷却器を使用して温度を下げ、ダークノイズ電流(光がない状態で生成される熱的に生成された電子)を抑制しています。

オフチップのノイズアンプにより、CCDは最小ひずみ、低ノイズ、高解像度、優れた光感度で信号を生成します。多段熱電冷却器は、センサー温度を3段で-50⁰C、4段で-90ºCにまで下げることができ、天体写真で使用される長時間露光を可能にしています。 CMOSセンサーでは、各セルに独自のアンプ(増幅器)があり、アレイの各列には通常、すべて同一チップ上に独自のアナログ-デジタルコンバーター(ADC)があります。このような集積、分散増幅、および並列出力により、CMOSセンサーのデータ転送速度は向上します。回路とフォトディテクターとを一括して製造できるので、CMOSセンサーはCCDセンサーよりも少ない製造ステップで製造できることを意味し、結果としてコストを削減できます。より速いフレームレートとより低いコストに加えて、CMOSセンサーは、画像処理機能を単一チップ上で直接行うことができます。ノイズリダクション(雑音低減)、オートフォーカス、自動露出制御、ジッター防止、モーショントラッキング、カラーエンコーディング、画像圧縮機能はすべて、チップに直接集積されています。


CMOSセンサー 

CMOSセンサー技術のたゆまぬ進歩により、電磁スペクトル全体でこれらのセンサーのパフォーマンスが向上し、人間の目には見えない光スペクトルで高解像度の画像を捕獲できるようになりました。新しいCMOSセンサートポロジーにより、量子効率(QE)、つまり光子を電子に変換してカウントするセンサーの機能が向上しました。これらのCMOSテクノロジーとオンチップ機能の進歩により、ハイエンドの科学用途のカメラでの使用が可能になりました。 CMOSセンサーはCCDよりも温度に対する感度が低いですが、温度が50ºCを超えると画質が低下する可能性があります。ピーク画像解像度は、熱電冷却器を使用して温度を最大動作条件未満に保つことにより、高温でも維持できます。これにより、ダークノイズが絶対的に減少するだけでなく、フレーム間または動作モード間の一貫性が維持できます。
温度を下げるとダークノイズが低くなり、機械学習アプリケーションで必要とされる高フレームレートでの高解像度と高感度の両方が可能になります。この画期的な技術により、残留応力、複屈折、表面粗さなどを検査するための次世代デジタル検査システムのデジタル画像のコントラストと精度が向上しました。


新たなアプリケーション

米国の半導体市場調査会社であるIC Insights社の最近の調査によると、CMOSイメージセンサーはCCDから市場シェアを奪い続けています。 CMOSセンサーは、2012年には市場シェアが74%でしたが、2017年に89%に増加しました。この市場調査会社は、また、CMOSイメージセンサーの用途の45%がカメラ付き携帯電話以外のアプリケーションになると予測しています。 これには、拡張現実や仮想現実などの有望な新しいアプリケーション向けの次世代カメラ設計が含まれます。
先進自動運転車および運転支援システム(ADAS)の物体検出および認識システムは、CMOSイメージセンサーに大きく依存しています。

CMOSイメージセンサーは、民生用、産業用、およびマシンビジョンアプリケーションにおいて正確なデジタルイメージングを提供します。 CMOSイメージセンサーテクノロジーの大きな進歩には、より高度なピクセルアーキテクチャが含まれますが、これらのデバイスの多くは、人工知能や顔認識などの機械学習アプリケーションを容易にするために、より多くの機能を集積しています。

 

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図 ロボットの目に相当するセンサーにはCMOSセンサー技術が使われている。


CMOSイメージングセンサーの別の使用例としては、ロボット、ドローン、光学式文字認識、バーコードリーダー、スキャナー、天文および衛星写真のマシンビジョン、天気予報用のレーダー画像の補強などがあげられます。CMOSセンサー技術は、湿度および温度センサー、X線検出器、マイクロホットプレート、流体の流れのセンサーなど、イメージング以外の領域でも使われます。 


熱の課題

熱雑音により、温度が上昇するとCMOSセンサーの画像解像度が低下します。 大まかな概算では、6°Cの温度上昇ごとに暗電流が2倍になることが示されています。 20°Cの温度低下により、ノイズが10 dB減少し、ダイナミックレンジは10dB向上します。 屋外環境では、温度が40°Cを超える可能性があります。 高温での画質劣化を防ぐために高温で動作するように設計された熱電冷却器を使用して、センサーの温度を最大動作温度より低くし、画像解像度を高く保つことができます。
 

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ハイエンドのマシンビジョンアプリケーションでのCMOSセンサーのスポット冷却は、重大な問題をもたらす可能性があります。ペルチェ冷却器を追加すると、イメージングシステムのサイズ、コスト、重量、および複雑さが増します。画像センサーを冷却すると、露点未満の温度にさらされる表面に結露が発生する可能性があります。多くのシステムは、時間の経過とともに結露が発生するのを防ぐために、外部から隔離された表面を備えた真空環境に置かれています。

パッシブ冷却による熱除去は不十分な場合があります。適切な空気の流れが制限されるので、周囲温度より数度高くなる非効率的な設計になってしまう可能性があります。この温度は、CMOSセンサーの最大動作温度制限を超えている可能性があります。これは、屋外アプリケーションで非常に頻繁に発生する可能性があり、アクティブな冷却が必要になる場合があります。ペルチェ冷却も熱を熱除去の経路に逃がし容量の大きな熱交換器で大気に熱を放散します。熱を十分に放散し、高温側の熱交換器の熱抵抗を抑えるには、ファン冷却または場合によっては水冷が必要です。

熱に関する要求事項に加えて、実装についても考慮することは、効率的な冷却を最適化するのに役立ちます。たとえば、ガス放出は、イメージングセンサーの光学系にガス成分が被膜する可能性があるため許されません。したがって、熱電冷却器とCMOSセンサの熱的界面材料としてアウトガスの少ない界面材料はの低いCMOSセンサーまたは代替界面材料との間の熱界面材料を、熱電冷却器の高温面と低温面を接着するはんだとともに適切に選択することが重要です。熱的短絡を最小限に抑えるために、設計を工夫する必要があります。これは、低温側の表面が高温側の表面と接触し、熱電冷却器がより多くの電流を流して同じ冷却性能を達成するときに発生します。

 

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図 CCTVカメラのような屋外での用途にはしばしばペルチェ冷却が必要になります。
 


熱の課題の解決法

CMOSセンサーの画質は、通常50〜60ºCの範囲の温度で低下します。 屋内で使用する場合、適切な気流を用いてCMOSセンサーを周囲温度のちょっと上まで冷却するには、インターフェース材料を備えた自然対流ヒートシンクで十分な場合があります。 全体的な熱抵抗を減らすには、表面と空気の接触が最大になるヒートシンクを設計することが重要です。 通常、スペースの制約により、適切なサイズのヒートシンクを設置することが困難になり、温度を周囲温度よりわずか数度高く保つために強制空気冷却が必要になります。

多くの屋外での使用に際しては、これらの受動的なやり方は十分ではありません。周辺に配置された電子部品からの発熱によりCMOSセンサーの許容上限温度を越えてしまい、ペルチェ冷却が必要になります。一段の熱電冷却器は温度差を生じ、ヒートシンクの熱い面の温度から50℃下げることができます。もしもヒートシンクの温度が90℃だとすると、熱電クーラーはCMOSセンサーの温度を必要に応じて40度まで冷却することが可能です。


HiTemp ETX シリーズ

レアードサーマルシステムズは、熱電技術を活用した熱管理における60年の経験に基づく専門知識持っています。それによりCMOSセンサーの冷却の標準およびカスタム設計を提供しています。当社の新しいHiTemp ETXシリーズは、高い動作温度条件で優れた性能を発揮する高性能熱電クーラーです。この製品シリーズは、高温環境下で性能劣化を妨ぐ強化熱電モジュール構造と冷却能力を最大10%向上させる先進熱電材料を使用しています。 改良された断熱バリアを利用することにより標準の熱電冷却器と比較して、HiTemp ETXシリーズは最大83°Cの温度差(ΔT)を実現できます。屋外で使用するためのハイエンドイメージングシステムの画像の解像度を最大化するには、アクティブなスポット冷却が必要です。当社は、熱抵抗を最小限に抑えるためにホット側とコールド側の熱交換器を最適化する設計するノウハウを持っています。

幅広いヒートポンピング容量とフォームファクタを提供するために、HiTemp ETXシリーズには、
幅広いアプリケーションをサポートする50以上のモデルがあります。 レアードサーマルシステムズの堅牢な熱電冷却器の構造は、標準グレードの熱電冷却器が使えないような高温でイメージセンサーを熱から守ってくれます。

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図 Laird Thermal Systems のHiTemp ETX シリーズ


結論

屋外環境向けのハイエンドイメージングシステムを組み合わせる傾向が、特にCMOSイメージセンサを使ったアプリケーションにおいてペルチェ技術を使用したアクティブ冷却ソリューションの進化をもたらしています。ハイエンドのマシンビジョンイメージングシステムでは、最適な画像解像度を得るためにアクティブ冷却が必要です。 そうしないと、高温によって高解像度の画像を捕獲し解釈する能力が低下する可能性があります。

HiTemp ETXシリーズ熱電クーラーをイメージングシステムに組み込むことにより、CMOSセンサーが動作許容最高温度に近づくのを防ぎ、より高い解像度の画質を提供を可能にします。

HiTemp ETX シリーズに関する元詳しい情報は以下のウェブサイトにアクセスしてご覧ください。 
https://www.lairdthermal.com/products/thermoelectric-cooler-modules/peltier-hitemp-etx-series

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