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次世代光トランシーバ向け超小型冷却器

はじめに

光ファイバ技術は、データセンターや通信基地局の産業において銅配線を本質的に置き換えてきました。AI(人工知能)や機械学習などの最新応用技術は、施設内の大事な距離に渡り低コストでより高速のデータ転送速度とバンド幅を必要としています。応用の多くは、温度を安定に保つことで、性能を上げ、光ファイバシステム内で重要な光電変換デバイスの寿命を延ばします。このアプリケーションノートでは、通信機器でよく使われるレーザーダイオードを解説し、超小型熱電冷却器(TEC)がレーザーダイオードパッケージ内に発生した熱をどのようにして除去し、全体の性能を最適化するのかについて紹介します。

MBX TECs for Optical Transceivers

小型熱電冷却器はレーザーダイオードパッケージ内で 生じた熱を取り除き、全体の性能を最適化します

 

技術概要

レーザーダイオードは、光ファイバネットワークの開発と拡張において重要な部品です。光ファイバ通信システムでは、光ファイバケーブル上でデータを送信するためにレーザーダイオードが光源として使われます。レーザーダイオードで発生する光ビームは光ファイバケーブルに容易に結合できます。ここでは、信号の減衰や損失を少なくして長距離に渡って伝送します。レーザーダイオードは、小型、低消費電力、高速データ速度という特長により、光エレクロトニクスの応用機器でよく使われる技術です。レーザーダイオードは、GaAs(ガリウムひ素)やInGaAs(インジウムガリウムひ素)などの半導体材料で作られる一つのレーザーです。活性媒体としてガスや液体を使う他の種類のレーザーと違って、レーザーダイオードは、発光するために固体材料を利用しています。

 

応用の概要

レーザーダイオードは通信機器やデータ通信、LIDAR、3D センシング、ヘルスケア、3D プリンタ、顔認証など広い範囲の応用機器に使われています。市場調査会社のモードアインテリジェンスによると、世界のレーザーダイオード市場は 2020 年に 88.4 億ドルであり、2026 年には162.5 億ドルに達すると見込まれています。2021 年から 26 年までの平均年成長率 CAGR は11.2%となります。通信応用機器でよく使われるレーザーダイオードには次のような機器があります;

  • 挿抜可能な光トランシーバ:典型的にトランシーバモジュール内に実装されるレーザーダイオードは、特定の波長の光ビームを発射します。光ファイバケーブルと結合させて 長距離に渡って高速にデータを送信します。
  • 波長分割多重(WDN)システム:レーザーダイオードを使って多数の光信号を 1 本のファイバに多重化するので、光ファイバのバンド幅を有効に使うことができます。
  • 光アンプ:レーザーダイオードを使って、長距離伝送に向け光信号の信号強度を高めます。

 

通信機器に使われるレーザーダイオードの種類

通信機器に一般的に使われるレーザーダイオードには数種類あります。レーザーダイオードの選択は、通信用途に合った特定の要求、すなわち通信距離の長さやデータレート、使えるバンド幅、消費電力、波長などや、性能とコスト、信頼性の間のトレードオフに依存します。以下、通信機器に使われるレーザーダイオードの例です:

  • ファブリ-ペロー型レーザーダイオード:光信号を変調するための光源として光ファイバ伝送システムに一般に使われます。
  • 分布帰還型(DFB)レーザーダイオード:回折格子構造を使ってフィードバック機構として動作し、レーザー光の波長を制御します。DFB レーザーダイオードは、狭帯域で定なレーザー波長が必要な応用、すなわち光通信ネットワークの高密度な波長分割多重(DWDM)システムなどに使われます。
  • 面発光レーザー(VCSEL):表面発光レーザーダイオードの一種類で、ダイオードの表面から垂直に光を出します。VCSEL は、低コストで高速、高効率のレーザーが必要な、光通信システムやデータセンターの光配線、光ファイバセンシングなどの応用で使われます。
  • vコヒーレントなレーザーダイオード:狭帯域で安定な帯域を出力し、機械学習やビッグデータの応用機器で使われるコヒーレント光通信システムに適しています。
  • ポンピングレーザー:Er(エルビウム)ドープの光ファイバ増幅器などの光増幅器を動かすために使われ、光信号を増幅します; 海底に設置する光ファイバケーブルと光ファイバ通信の中継器が信号を増幅するためにポンピングレーザーを使います。

 

レーザーダイオードのパッケージ技術

レーザーダイオードのパッケージは、気密封止になっており、パッシブ冷却で、レーザーダイオードのために光と電気の接続が必要です。選ばれる特定のパッケージは、機能や性能、環境状態、設置可能なスペースなどの通信機器の要求に依存します。通信機器に一般に使われるレーザーダイオードのパッケージの例を以下に挙げましょう:

  • バタフライパッケージ:まるで蝶々のような変わった形からそう呼ばれている、この小型で低コストのパッケージは、レーザーダイオード用の機械的な支持台と冷却用に金属 製の封止板でできています。
  • TO 型のキャンパッケージ:円筒型のパッケージは、良好な熱特性とハイレベルの機器の安定性を提供します。
  • TOSA パッケージ:光送信機のサブアセンブリとして電気信号を、光ファイバケーブルに結合している光信号に変換するのに使われます。
  • ROSA パッケージ:光受信機のサブアセンブリとして光ファイバから光信号を受信し、後ろの電気回路で電気信号に変換します。
  • BOSA パッケージ:これは双方向の光サブアセンブリで、TOSA と ROSA の両方で出来ています。
  • ピッグテール型パッケージ:簡単でストレートな光接続を形成するこのパッケージは、一つのパッケージに実装されたレーザーダイオードと、ピッグテールのような光ファイ バからなります。
  • マルチソースに合わせた(MSA)パッケージ:異なる部品とシステムの間で互換性を持つように設計されているため、レーザーダイオードを通信ネットワークに統合すること が容易になります。

 

レーザーダイオードの性能

レーザーダイオードの性能は、温度や電流、光出力など多くのファクタに影響されます。温度が変化するとレーザーダイオードの電気信号や光特性を変えてしまいますので、性能に影響を及ぼします。高温で常時動作していると、レーザーの寿命を短くします。

レーザーダイオードの動作温度は、レーザーダイオードの種類やパッケージのようないくつかのファクタやレーザーダイオードの出力、動作条件によって変わります。新しい光デバイス内のレーザーダイオードはもっと高い温度で動作しますが、通信機器向けに設計された標準的なレーザーダイオードは、-10℃~85℃の特別な温度範囲内で動作します。400Gb/s 以上の高速のデータレートを追求している最新の通信機器は、新しい光デバイスが使われ、最大温度範囲を広げるという特長があります。

最大動作範囲を超える温度では、レーザーダイオードの性能は、熱抵抗の増加と電流利得の減少によって劣化します。この結果、レーザー出力パワーが減少し、閾値電流が増加します。高温になると、レーザーダイオードの波長がシフトします。このため性能と信頼性に悪影響を与えます。波長のシフトが起きるとレーザーダイオードに使われる半導体材料の屈折率が変わります。場合によっては、波長の厳しいシフトがあると、大きなクロストーク(干渉)につながり、時にはレーザーダイオードの故障にまで至ることもあります。例えば、光通信機器に使われる DFB レーザーは、典型的に 1260~1650nm の波長の光を発射します。温度が上昇すると、ピーク波長が長波長側にシフトします。約 0.1nm/℃ずれます。

温度が低くなると、レーザーダイオードの性能は、熱抵抗が減り電流利得が増えるため良くなります。この結果、レーザー出力パワーが増加し、閾値電流が下がります。しかし、最も低い動作温度よりも低い温度だと光子(フォトン)の寿命が短くなり、再結合損失が増え、さらに内部損失が増えますので、熱抵抗が下がるというメリットを打ち消してしまいます。

温度の揺らぎに起因するもう一つの問題は、クロストークです。広いバンド幅と長距離が求められる通信リンクでそれが見られます。大規模のデータセンターは、波長分割多重を使う光トランシーバでこの問題が見られます。多重データストリームを並列に結びつけることによって、光ファイバのデータスループットを上げます。(IEEE Transactions on Components,Packaging and Manufacturing Technology, August 2022)

波長がずれないように維持し、クロストークを除去し、信頼性のある性能を確保するためにレーザーダイオードの温度を安定に維持することは重要です。このことは、熱電冷却技術を使う温度制御システムによって達成できます。

 

レーザーダイオードの冷却の問題

レーザーダイオードの熱管理は、かつてないほど難しくなっています。より高速で大量のデータが転送され、電力密度は増え続けており、製品のフォームファクタは小型化し続けています。このため本質的に熱流束密度が高くなっています。効果的で効率の高い熱管理ソリューションの必要性は、適切な性能とレーザーダイオードの長寿命化を確保するために欠かせませ ん。

 

冷却技術

レーザーダイオードの温度を正常に保つのに使われる技術はいくつかあります:

  • アクティブ冷却:サーバーやスイッチレベルのデータ通信でよく使われるアクティブ冷却には冷却ファンやヒートシンク、強制液冷や熱電冷却器などを使ってレーザーダイオードのパッケージから熱を取り除きます。代表的にはこれはレーザーダイオードにヒートシンクを取り付けさらにファンを使ってレーザーダイオードで生じた熱を、周囲の空気に放散させます。熱電冷却器(TEC)は電気的エネルギーを熱エネルギーに変換することによって、小面積部分を冷却あるいは加熱できるデバイスです。熱電冷却器は、レーザーダイオードからの熱を取り除き、光パッケージに放散させ、さらにその熱を周囲環境へ放散させることによってレーザーを冷却するのに使われます。
  • パッシブ冷却:自然対流や熱伝導に頼って、レーザーダイオードから熱を除去します。例えば、ヒートシンクはレーザーダイオードにぴたりとくっつけることができるので、レーザーダイオードで生じた熱を吸収し放散します。
  • 温度制御回路:電子回路を使って、レーザーダイオードに供給される電流や電圧を調整することで、レーザーダイオードの温度を制御します。温度制御回路はレーザーダイオードの温度を一定に保ったり、所望の動作条件に基づく温度になるように変えたりできるように設計されています。

 

なぜ超小型/マイクロ TEC か?

レーザーダイオード技術の進展はまた、熱管理ソリューションの進展も必要とします。レーザーダイオードは、データスループット速度が増すにつれ、そして接続間の距離が延びるにつれ、熱をより多く発生します。その結果、レーザーダイオードのパッケージは、より高い排熱能力が求められます。熱に敏感な電子回路からパッケージの外へ熱を逃がすためです。熱を外へ汲み出すためにより高密度でより薄いマイクロ TEC が求められ、効率を上げ、正確な波長制御と温度安定性を維持します。

新熱電材料と高精度な製造プロセスによって、薄い厚さのマイクロ TEC を開発できました。これによってレーザーダイオードは熱的安定性を妥協することなくより小さなフォームファクタを実現できました。このデバイスはまた、温度変化にも効率良く応答できますので、光通信システムのような効率の高い熱制御応答が必要な応用機器では重要です。効率が高いほど、レーザーダイオードの性能と信頼性が改善され、もっと高いデータ転送速度が可能になります。加えて、マイクロ TEC は、高いスループットで安価に製造できますので、レーザーダイオードシステムの全コストを下げることができます。

レアードサーマルシステムズがリリースした新製品 OptoTEC™ MBX シリーズは、レーザーダイオードの温度安定性を得るのに理想的です。OTX シリーズよりも小さいため、超小型の MBXシリーズは、より小型、より低消費電力、より高い信頼性、量産化による低いコストなど最新のレーザーダイオードの応用機器の要求を満たします。これらのファクタは、性能を上げ、レーザーダイオードの信頼性寿命を伸ばし、次世代通信機器のイノベーションを可能にします。

Micro TEC Heat Absorbed

 

実際に動かす

温度安定性がこの分野のカギとなる問題です。例えば、レーザーダイオードの代表的な動作温度範囲は、25℃と 85℃の間です。85℃の環境で実装され、25℃まで冷やされると、60℃の温度差で最高の性能に達し排熱能力は小さくて済みます。これらの応用が冷却を必要とする間、必要な熱除去は、パッケージ内の熱抵抗の低い熱伝導経路を通してなされなければなりません。以下に述べる設計上考慮しなければならない点は熱を効率よく除去するために評価されるべきものです:

  • 最適な TEC の設計:応用機器の要求は、所望の動作点で働くように十分理解してく必要があります。寸法やそれらが関連するファクタをレーザーダイオードとパッシブな熱損失から熱を除去するための要求に合うように最適化します。高温側・低温側の熱抵抗も考慮に入れる必要があります。熱電冷却器を横切る温度差をかなり減らしてしまうからです。
  • パッケージ設計:小型のフォームファクタで最も安いパッケージがよく選択されますが、パッケージは重要な熱放散機構であり、最も良好な熱伝導率を持つ必要はありません。パッケージのフォームファクタが小さくなるにつれ、熱流束密度が増え、熱放散がまずければ熱暴走につながる恐れがあります。このことは、パッケージのサイズと材料の熱伝導率を変えることによって避けられます。TEC とレーザーダイオードに必要な全体の熱遮断能力に合わせるのです。
  • TEC-パッケージ間の界面:TEC からパッケージまでのハンダ濡れ性が TEC からの熱遮断能力を確保するうえで重要になります。ハンダがうまく接着していなければ、ハンダボイド発生につながりますので、高温側の熱抵抗が増加してしまいます。TEC のセラミック基板表面に適切にメッキできる材料と最適なハンダが必要で、ハンダボイドが最も少ない接合層が得られるように確保します。このようにすると、TEC の動作中に効率を上げることによって最大の効果が得られます。
  • 寄生効果による損失:パッシブな熱損失は、TEC の高温側と低温側の間で熱ショート(短絡)があると発生します。ほとんどのパッケージは真空ないし不活性ガスによる気密封止されていますので、周囲環境に置かれてもパッシブな熱による損失は最小に抑えられます。しかし、TEC と、TEC の冷却側の基板上にある光デバイスに接しているリード端子は、高温側から伝わってくる熱に影響されます。このため、TEC が同じ冷却能力を得るために必要な消費電力以上の電力を消費することになります。もっと低い電流でTEC を動作するように設計することが理想的です。こうすると、リード線のゲージ厚を減らしリード線から伝わってくる熱を減らすことができるからです。

 

設計変更が決まると、TEC は温度制御回路で制御され、この回路で TEC に供給する電流を調整してレーザーダイオードを所望の制御温度に維持します。考慮すべき調整個所はこの他に、サブストレート(基板)材料と TEC のハンダ構成です。材料にはもっと高い熱伝導率の材料や、接着するハンダ材料があります。これらは性能や熱放散性、信頼性を上げますが、エンドユーザーの応用機器のコスト目標に対して天秤にかけなければなりません。たいていの応用機器では大量購入なら高い材料コストは受け入れられません。

 

結論

光通信はレーザーダイオード技術の開発のけん引力の一つでした。レーザーダイオードは、これらのシステムで信頼性と安定性を確保するうえで重要な役割を演じてきました。しかし、温度変動がレーザーダイオードの性能に影響を及ぼすため、安定して信頼のある性能を確保するために安定な温度を維持することが重要です。高温では性能は劣化し低温では改善します。しかし、光子の寿命を減らすという潜在的な欠点も持っています。レーザーダイオードパッケージの中にマイクロ TEC を入れると、レーザーダイオードの性能や動作寿命は最適化されます。レーザーダイオードを冷却するために TEC は理想的な技術です。TEC は高い冷却能力を持ち、応答時間が短く、小型でエネルギー効率が高く、消費電力も低く、さらに温度制御が簡単だからです。

詳細については、にアクセスしてください:

https://lairdthermal.com/ja/products/thermoelectric-cooler-modules/micro-MBX-series

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